北野武監督作品
元々、”芸人ビートたけし”は私にとっては特別な存在ではありましたが、”監督北野武”は、ある意味それ以上に特別な存在になりましたね〜〜

とにかく、私にとって北野作品の魅力は偏に”粋”である事です。起こった事の全てを見せない。起承転結があったとして、承なり転なり(時には結までも…笑)省いてしまって、後は見る者の解釈に任せるみたいな部分。それはきっと、観客を信頼しているからこそ初めて出来る技ではないかと…

まあ、ちょっと、途中、(私的に)若干”野暮”に傾きかけた作品(『Br…』とか『Do…』とか…)もありましたが…笑

『その男凶暴につき』

&『3ー4X10月』

いや、正直いうと、それほど期待して見に行った訳ではなかったのですが、いざ見たら、ちょっと軽く殴られた位の衝撃を受けましたね〜〜(しかもいきなり後ろから…笑)

個人的見解ながら、北野監督は、この処女作『その男…』にてそれまであった既存の映画の解体、破壊を試み(だから本作は、多分にそれまであった刑事物のパロディ的要素を含み、一種大真面目にこしらえた刑事コントと言えるかも…。もっとも、コントにしちゃあ、異常にバイオレントだけれども…笑)、次作『3ー4X10月』にて初めて独自の映画の構築を始めたのではないかと思っております。(勝手に…笑)

それだけに、『3ー4…』は、所々、部分部分にキラキラとした要素を多分に持っていながら、全体としてみた時には、若干荒削りといおうか、ちょっとギクシャクとした感じを受けます。(あくまでも私見ですから〜〜)

『あの夏いちばん静かな海』
それまでのバイオレントな2作とうって代わって、そのタイトル通り実に静かな映画です。

まあ、何しろ、主人公の男女が2人とも聾唖者の設定という事もありましょうが、それ以上に今作に於いては”言葉(=セリフ)”自体を排除しようとする姿勢さえ見受けられますね…

例えば、主人公以外の健常者のセリフでさえも、殆ど隠し録音したかの様な扱いで、逆に言えば有っても無くっても良い位の印象。で、それが本作を妙にドキュメンタリーっぽい仕上がりにし、”作り物(=ドラマ)”という印象から遠ざけているような気がする。

そして、物語はあえて劇的な展開を排除するかのように、実に淡々と小さなエピソードを紡いでいって、そして何の前触れもなく突然に幕を下ろす。(あたかも先を予測出来ない現実の様に…)

しかし、全体的に実に淡々としたまま、舌足らずな印象のまま、文字通り静かに幕が下ろされかけたその瞬間、この映画は突然弾ける。それまで決して映されなかった、見ているものには許されなかった角度の主人公達の、かつてあったはずの様々な場面の映像が、一気に波のように押し寄せるのだ。その波は、それまで語られた個々の舌足らずな場面場面の間を埋め、包み込み、やがて見ている者の(少なくとも私の)頭の中を一杯に満たし、溢れさせる。(ある意味、『2001年宇宙の旅』のラストの映像の海のトリップ感さえも超えているかも…私的に。)

二回目に見た『ニューシネマ・パラダイス』の例のラストには、感心はしたけど感動はしなかった私が、この映画にだけは何度見てもどうにもこうにも感情の揺れに抵抗出来なくなる。正に、”my 号泣映画NO.1”である。

『キッズリターン』 これは、第3作『あの夏…』の続編、というのが大袈裟であれば少なくとも姉妹編であると思っております。(例によって、勝手に…笑)

勿論、物語的には全然違う話だし、登場人物も違うけれども、でもこの2作は物凄く同じ匂いがして仕方がない。ただ違っているのは、『あの夏…』では決して成長を目指さなかった登場人物達が、本作に於いては皆それぞれに”上”を目指して行こうとする点。

例えば、両作ともに主人公達には”先を行く者とそれに付いて行く者”という関係が共通してあるのだけれど、最後迄一方が一方の後ろを(サーフボードの端っこを持って)付いて行くという関係を崩さなかった『あの夏…』に対し、本作に於いては途中で二人の関係は逆転してしまう。

また、脇役の関係にしても、最後迄コメディリリーフとして、いつまでも主人公達の後を付いてまわって、一種のパロディを演じて笑わせたボケボケの万年ジャージコンビ(『あの夏…』)に比べ、本作のコメディリリーフ(番長グループ)達は、最後には一瞬、主人公達さえも追い越してしまう。

一種の”永遠に続く夏の日”を思わせる、ある意味変化を失っていた『あの夏…』の登場人物達に対し、本作のそれは、皆変化を欲し、自ら動いて行こうとする。(まあ、結局はその成長にも、常に挫折の匂いが付いて回っているのだけれど…。でもその中で、脇のさらに脇役ながらも、唯一最後迄成長を続けていたのが、漫才師志望の二人組だったというのもちょっと興味深い)

この登場人物達の変化、成長が、そのまま監督の成長、少なくとも変化であるのは間違いないのではないかと…(何しろ、この2作の間には例の生死を分けかけた事故があった訳で…)

少なくとも、それまでは最後に主人公達を殺す事以外の終わり方を見つけられなかった監督が、本作に於いて初めて主人公達を(ある意味、生き恥をさらしてまで)生かしておいた意味は深いと思う。