山田洋次監督作品
元々、『男はつらいよ』シリーズは、小さい頃からテレビで見て親しんでおりまして、中学生の頃には渥美清の主題歌レコードを発見、聞き捲っていたりしました。でも、これ程ハマる切っ掛けになったのは、20歳の頃に、丁度シリーズが40作目になるのを記念して、今はなき東銀座の松竹セントラルで、それまでの39本を2ヶ月間に(2日で2本づつ)一気に上映するとうい”寅さんまつり”という上映イベントがあり、学校も行かずにせっせと通って、結局一人で全部見倒してて、特典として寅さんの鞄型システム手帳の他、何と!40作の初日に渥美清さん御本人に直接御会い出来たのでした。

ただ、ショックだったのは、記念写真で見比べたら、渥美さんの顔よりも私の顔の方が若干大きかった事。

(あ〜〜「男はツラ(でか)いよ」…涙)

『男はつらいよ』
記念すべき、ギネスも認めた長寿映画世界一シリーズの第一作。寅さんもかなり若く、顔なんかテカテカとはち切れんばかりに輝いているのが凄い。それから、なんと背広を着て、ネクタイを締め、革靴を履き、矢切りの渡しに乗って登場する寅さんの姿も拝める。

この頃の寅さんは、とにかく攻撃的で面白い(正に”ヤクザな兄貴”)。さくらのお見合いをめちゃめちゃにする件はもう圧巻。

さくらの見合い相手として、若かりし日の広川太一郎氏のお姿も。午前様の伝説のギャグ、「バタ〜〜」もこの作品が初出。

『新・男はつらいよ』

(第4作)

『フーテンの寅(第3作)』と本作だけが山田演出でない為か、かなり他のシリーズからは逸脱していて楽しめる。

冒頭、競馬で大穴を当てた寅さんが、名古屋からタクシーで凱旋。日頃迷惑をかけているおいちゃんとおばちゃんにハワイ旅行を計画するも、当日になって旅行会社の社長に資金を持ち逃げされたのが発覚。しかし既に餞別も貰っているので、出発したフリで空港からそのままこっそり逃げ帰り、電気をつける事も許されずにそっととらやの奥で息を潜めている所に、な、な、なんと財津一郎扮する泥棒が〜〜〜…

『男はつらいよ・望郷編』

(第5作)

個人的には、シリーズ中でも最高峰の完成度かと…。

3、4作と他人の手に演出を委ねた山田監督が、最後に集大成の積もりで撮り上げたのではないかと。(マドンナの長山藍子も、その母役の杉山とく子も、恋敵役の井川比佐志も、それぞれテレビ版のさくら、おばちゃん、博役だった面々)

労働に目覚めた寅さん(このスチュエーションだけでかなり可笑しい)が、結局何処でも使い物にならずに、ふて腐れて江戸川の小舟に横になりウトウト。そのまま流されて行くシーンから、実に十数分間、ようとして主人公の行方が告げられない。そこへ腐った油揚げと共に、見なれた汚い字で書かれた一通の手紙が。勿論、差出人は寅さん。消印は浦安。(実に、あのまま流されて、そのまま浦安に辿り着いていたのだ。笑)

『たそがれ清兵衛』 『男はつらいよ』シリーズの後半や、最近の他の妙にお行儀の良い作品群を垣間見るにつけ、山田監督の存在は私の中ではあまり大きくなくなっておりまして、正直、本作もそれ程期待はしていなかったものの、いや、やられましたね〜〜〜

それまで私の持っていた、近年の作品群のちょっとぬるい(失礼…)印象を、清兵衛は正に一刀両断の下に斬って棄てましたね。

70歳を超えての時代劇初挑戦。しかも黒澤映画を彷佛とさせるリアルさの追求と、黒澤にはなかった市井の人々の視線の両立。

最近の時代劇は、とかくやれ何十人斬りだとか、CGやワイヤ−アクションを取り入れた迫力のアクションだとかを売文句にしていててちょっとアレでしたが、これ程地味でいながら、いや、だからこそ恐い殺陣は初めてだったかも知れないです。

『隠し剣 鬼の爪』 これはマジでここ数年で一番という程の大傑作。個人的には『たそがれ…』さえも超えたと断言。(勝手に…笑)

”下級武士の生き様”の描写をメインにしていた前作に比べ、本作はストレートに”男女の感情”(愛という言葉を使うと薄くなっちゃう気がして…)をメインに持って来ているので、より深く感情移入させるのかも知れない。

とにかく、下級武士役という点では、いくら汚してもやっぱし男前は隠せない真田広之に比べて、かなり永瀬正敏は適任。それにも増して、ヒロインの松たか子がめちゃめちゃ素晴らしい(いや、惚れました…笑)。

原作も読んだけれど、個人的には映画の方が上ではないかと思う。勿論、原作は短編だし、ストレートな比較はフェアではないのかも知れないけれど、それでも映画の方がより深いと断言。(勝手に…笑)

緒方拳を始め傍役も良いし、幕末を匂わせる西洋砲術訓練をコメディリリーフ的に配しておきながら、それをラストに繋がる布石ともしている辺りの上手さには舌を巻く。

山田洋次監督、齢70を超えて、凄い事になって来たな〜〜〜。山田洋次×藤沢周平(原作)という組み合わせは、かつての山田×渥美清というコンビにも匹敵する邂逅かも知れない。

それにしても、どうしてあんまり話題に登らなかったんだろうな〜〜絶対、次も藤沢原作ものを作って欲しいのにな〜〜

とにかく、北野武監督作『あの夏いちばん静かな海』と並ぶ、”MY号泣映画”ベスト1、2を競う一本です。

追記('08 2月記)

余談ながら、この傑作をものしたこの藤沢×山田という奇蹟のコラボが、3部作のラストでどうしてああなっちゃうのかな〜〜??『武士の○分』。